素性法師
※俗名は良岑玄利(よしみねはるとし)。父は僧正遍昭。
今来むといひしばかりに長月の
有明の月を待ち出でつるかな
【歌の背景】恋する女性の立場に立って詠まれたもの。男のかりそめの言葉を頼りにして、もう来るか、もう来るかと秋の夜長を一晩中、待ち明かし、有明の月を見る結果になったというやるせない気持ちを詠んだもの。男性、それも僧が恋歌を作っている点に陰翳が感じられる。
【歌 意】「すぐ来ます」とあなたが言ったばかりに、私はその言葉を信じてもう来るか、もう来るかと待ちました。そのうちに長い九月の夜も明けて、肝心のあなたは来ないで、待ってもいない有明の月を見ることになってしまったことです。
【作者のプロフィル】父は僧正遍昭で、その在俗中に生まれた。素性は俗名を良岑玄利といった。由性法師は弟。初め清和天皇に仕え、右近衛将監であった。父の意志で出家し、その後上京の雲林院に住み、権律師に任ぜられ、また大和の石上寺の良因院の住持となった。彼がなくなったとき、紀貫之、凡河内躬恒らが哀悼歌を贈ったほど当時有名な歌人だった。